『楽聖少女』 感想

楽聖少女 (電撃文庫)

楽聖少女 (電撃文庫)

杉井光の集大成が今ここに

嵐の日の図書室、高校生ユキは悪魔メフィストフェレスによって19世紀のウィーンへと連れ去られてしまう。ユキの知る歴史よりも技術の進んだそこで、若い身体を手に入れ人生を謳歌したいと望んだゲーテの成り代わりとして選ばれたのだった。同僚のシラーと執筆活動を続ける中、休養にと向かった温泉地でひとりの少女と出会う。

さーてこれを買ってもらうにはどこまで書けばいいのか……
少しずつネタバレ度が増していきますので、「買おう!」と判断した時点 で、この記事を読むのはやめていただくのが吉かと。

悪魔との契約は、心が満たされ世界に満足すれば、その時点で魂を奪われるというものです。現代日本に帰りたいユキとしては、そんなことになる前になんとかして戻る方法を見つけたいのです。
ところがどっこい舞台はウィーンです。音楽の都です。そして19世紀……
そう、名だたる音楽家たちが存命しているのです!
少女との出会いをきっかけに、ゲーテとしての作家や宮廷顧問の立場も手伝って、ユキは心を高ぶらせる至上の音楽たちに悩まされます。
そんな中チラつくのが、悪魔や神と契約した人々の存在……
2万人の兵を素手で倒す某軍人だったり、お前なんで生きてるんだよ、という音楽家だったり。
そして、ユキの知識とは徐々に食い違っていく世界の動きに巻き込まれ、物語は思わぬ方向へと進んでいきます。

いやすいません、早くネタバレ全開の感想が書きたくてどんどんおざなりになってしまいました。
もう買いましたよね?読みましたよね?では語ります。

もうね、杉井作品のあらゆる魅力がギッシリ詰まった一冊でした。
ハイドンとか杉井さんアンタそれがやりたかっただけだろという見事な出オチっぷりに笑いが止まりませんでしたよ。ちゃんと終盤でも魅せてくれましたがそれでも泣くほど笑いました。
偉人を全力でおちょくる感じは、さくら家の使徒たちを思い出しましたね。
本当にぶっ飛んだキャラクターばかりでした。
イカれた審問官はシオン、ファンクラブはエリアルフォース……この辺はちとこじつけっぽいか 
さよピとのリンクはですねー、もー、最高。しかし彼らの子がこんな状況に陥ってるのかと思うと、世界観のギャップに少し笑えてきます。ナオくん、息子さんとんでもないことになってるよ……

で、ベートーヴェン。もといルゥ。
フランツ二世相手に啖呵を切ったシーンはぞっとしました。
このセリフが、例えばただの音楽家志望少女によるものであれば、ここまでの迫力は無かったでしょう。他でもないベートーヴェンによって発せられる、音楽家としての矜持。その姿は少女であるはずなのに、そこに宿る力強さはまさに稀代の天才音楽家の存在を感じさせるものでした。

ユキに関してはー……ジゴ、ロ…?
いや、今回はゲーテであるが故にといったところもあるのでそこまででもない…こともないか……
というかそう、キャラ付けに関してなのですが。
ゲーテ+ナオと真冬の子+ファウスト
な、なんだこのぼくがかんがえたさいきょうのしゅじんこうは……
これだけの設定に裏打ちされていれば、どれだけハイスペックでも違和感ないですね!
実際魔術要素にも説得力を持たせることに成功していますしね。
あ、自分は浅学故、ファウストの訳とか知りませんでした。そのせいで、違うのかなーって。いやそれもすべて杉井先生によるミスリード……

あとはラストについて言及して締めとしましょう。
いや泣きました。これ完全に自分の好きなやつやー!
フレディ…… 自分の没年を見たときの彼の気持ちや、ユキへの思いやり。それらを引き立てる彼の底抜けない明るさ。
ああ、もう……ね。せつないです。

続くんですよね。それはすごく楽しみですが、今しばらくはこの余韻に浸っていたいです。